■康定→雅江→理塘 (2012年)
中国四川省の大都市成都から西へ220kmほど行くと山間の街・康定がある。
ここを拠点に南北の見どころを数か所周った後、康定のバスターミナルで次の目的地である理塘行きのバスチケットを買うために長蛇の列に並んでいた。
中国のバスターミナルでは電光掲示板に目的地のチケット(票)が何枚残っているか表示され、残がなくなったらその時点でチケットは売り切れとなる。
その時は自分の番が来るまでに電光掲示板に「5」と表示されていたので、安心しきっていた。ついに自分の順番が来たので窓口で「理塘 (リタン)」と言うと「没有(メイヨウ)=ないという意味」との返事。
ここに来るまで中国を1ヶ月旅してきて、事あるごとに素っ気なく「メイヨウ」と言われてきたので「冗談だろ」と思い電光掲示板を振り返って見ると「0」になっている。
そんなバカなことがあるだろうか?さっき見た時は「5」と表示されていたのだ。
理塘 行きの余票「0」
後ろに並んでいる中国人が何か言っているが全くわからない。窓口のおばさんと口論になる。(と言っても中国語は片言だけしか話せないのだが)
しかし、何を言っても「メイヨウ」の一点張り。
「ふざけんな」と思い、納得できないまま宿へ戻り受付のスタッフにその件について話してみた。
「今、バスターミナルで理塘 行きのチケット買いに行ったら、窓口で『ない』って言われたんやけど。自分の直前までは電光掲示板に残チケット数が『5』と表示されていたが自分の番になるとゼロになった。こんなことありえる?」
「あぁ、つい最近中国政府が理塘 へ行く外国人旅行者を制限しているという情報があったから多分そのせいだ」
マジか。なんというタイミング。
チベット自治区では外国人旅行者の入域が制限されるときがあるのだ。
特に理塘は歴代ダライラマの出身地であることなどから、もともと政治的にデリケートな街であるため、頻繁に外国人の入域が制限されることがある。
今後の予定としては
鳥葬を見るために何としても理塘へ行き、そこから南下し、郷城→シャングリラ→麗江→大理というある意味最もオーソドックスなルートを想定していただけに理塘へ行けないとなると大幅にプランが狂う。
こうなると康定から成都まで戻り雲南省を南下するルートを取るのが一般的だが、ここまで来たのだから何とかならないものか。
「諦めない」・・・不条理な世の中において、この精神性こそが道を切り拓く一歩となる。その後も成都へ戻ることは思考の外へ置き、何とかして理塘に行ける方法がないか、周りの中国人に聞いて周った。
2日後、途方にくれ憔悴しきっていた自分に朗報が舞い込む。
宿のスタッフが「今から理塘へヒッチハイクで行こうとしている女性がいるから一緒に行けばいいよ」と教えてくれたのだった。
「え?ヒッチハイク?」とそれまで考えもしなかったアイデアに「確かにその手があったか!」とまだヒッチハイクの成功もしていないのにすでに気分は有頂天になっているのだった。我ながら本当に単純である。
その日の夜はテレビでユーロ(サッカーの欧州選手権)を見て最高の気分だった。こんな山奥のチベット文化圏でも無料でユーロが見れることを思うと、バカ高い放映権料を払ってるにもかかわらずサッカー放送をまともに見れないどこかの国は何なんだ?と憂国の思いに駆られるのだった。
中国で宿泊した中でも最高レベルに居心地が良かった康定贡嘎国际青年旅舍
・康定→新都橋
翌朝、広州出身の中国人女性(チュンさん)と乗り合いバスに乗り新都橋へ。
あまりの悪路の為、バスのタイヤがパンクする。
・新都橋→雅江 ヒッチハイク
新都橋でチベット人の運転する車に乗せてもらう。
新都橋~雅江間。砂煙で前が見えないor工事中で道が崩壊
8時間ほどかかって雅江到着。
雨の中宿を探し投宿。近場のレストランで夕食。
・雅江→理塘(135km)
雅江の郊外まで歩き、ヒッチハイクポイントを探す。
しばらく待っているとチュンさんがバカでかいトラックを止め運転手と交渉。
難なくヒッチハイクに成功する。
仮に自分が中国語ペラペラでも中国でヒッチハイクに成功できる自信はない。
こういう時、若い女性は最強だなと思ってしまう。
もちろん、その分、リスクはあるのだが・・・
落石や劣悪な道路、標高の高さも相まってただの移動なのに冒険心を掻き立てられる。
トラックの運転手はチベット人で、理塘まで行った後はそのまま巴塘方面へ行くという。
チュンさんもラサまでヒッチハイクで行くのが目的らしいので、2人とは理塘でお別れとなる。康定のユースホステルにいた時、何人もの中国人チャリダーが「理塘→巴塘の道中は絶景」と言っていたので、心がだいぶ揺れ動いたが、巴塘はもともと外国人旅行者が個人で旅することが許されていないエリアなので、「ラサまで行こう」と誘われた時は断らざるを得なかった。不法滞在が見つかった場合、罰金だけで済むのか、最悪牢獄に入れられることを想像すると行きたいのは山々だけど、そこまで振り切る度胸はない。
理塘行きが制限されている中、理塘を目指して移動している時点で公安に見つかったらアウトなのだが、チュンさんと運転手が「チェックポスト(検閲所)があれば足元にかがんで隠れて。私たちが検問で取り調べを受けても絶対に顔を上げないで伏せたままでいてください」と言われ、持つべきものは同志だと、感謝の意を伝えた。
ガードレールもない悪路。康定→理塘間は普通車で移動するとボロボロになること確実
ただトラックに乗って移動しているだけで身の危険を感じる道中
とんでもない悪路を悪天候の中、求道者のごとく進むチャリダーを見ると少し羨望の念を抱いてしまう。
バスや電車で移動していると、チャリダーを羨ましく思う時が多々ある。
移動中に「ここで止まってくれ」と思うような圧倒的な景色が続く道は特にそう感じる。
車やバスが一瞬で通過して見過ごしてしまう風景も自転車なら満喫できるはずである
世界を周って数多くの場所を見てきたが、この理塘周辺のエリアも自転車乗りとしては最高と最悪の両極を堪能できる素晴らしい道だと思う。
新都橋以来の2度目のパンク。タイヤが抉れている。修理する運転手を手伝おうとしたが、このタイヤを動かすことすらできない自分は完全に場違いだった。
タイヤの交換を終えてしばらく走ったところで掘っ立て小屋を発見。そこで昼食を取る
助手席に座っているだけだったので気づかなかったが、このあたりの標高は4000mを超えているらしい。富士山より高い場所が延々と続くエリアを全部舗装できるわけないわなと今までの悪路はある意味仕方ないと思える一方で、中国政府の僻地の開発ぶりや観光資源への資金投入を見ると、このあたりも数年後には舗装道路になっているかもしれない。だとしたら、おそろしい。
何気なく標識を見ると「標高4718m」!
外で休憩していると、遠くでヤバそうな雲行きを発見。数分後、雹害に遭う
雹が降ってきたのでトラックの中に逃げ込む。
チベットでは頻繁にあるらしく、あまりにも酷いとヤクが死んだり、穀物にも影響が出て死者が出ることもあるという。
黒魔術で誰かが引き起こした雹でなければいいのだが・・・。
(チベットの伝説的な聖者ミラレパは家族の復讐を果たすために、標的が住んでいる村に雹を降らせ村を壊滅させたという逸話がある)
理塘の手前18kmにある新設された村を通過する
途中で何ヶ所か検問があったが全く問題なく通過し、標高4000mの理塘に何とか到着。
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