・ティラドスムド→シングラ・コマ
いよいよトレッキング開始。
前日の氷上歩行の練習時に教わったペンギンスタイルで歩いて行く。
周囲を5000~7000mの高山に囲まれてる為、午前中は渓谷内に日が射すことはほとんどない。そのため、日中の平均気温はマイナス5~10度ほど
このような地理的条件からチャダルは形成・維持されているが、近年は温暖化の影響で氷が張る期間も年々短くなっているらしい
いずれ、ここにも立派な道路ができるのだろうか?
最初の難関。と言っても岩伝いに歩けば大丈夫
思っていたよりは滑らないので、いつものように写真を撮りながら進む。
ポーター兼料理人は現地のザンスカール人が6~7人ほど。ガイドはインド人1人、ザンスカール人1人。トレッカー1人当たりの荷物は10kgほど。
そういえば、ツアーに申し込むときに健康診断証明書が要ると言われたので、わざわざカトマンズの病院に行って健康診断を受けたのに証明書の提示を求められなかったなとふと思い出す。インドのこういう適当・・・ではなく、おおらかな所が好きだ。このおおらかさのおかげでチベット文化がザンスカールだけではなくラダック全体に色濃く残っているのだろう。ダラムサラにチベットの亡命政府が置かれているのも偶然ではない。「来るものは拒まず、何でも受け入れる」という日本で言えば大阪市西成区のような受け皿的側面に清濁併せ吞む器の大きさ、歴史の奥深さを感じる。同じくおおらかで深い歴史を持っている中国だとチベット人の同化(中国化)をより求めるだろう。言葉で大枠だけ捉えると似ている両国だが質が違う。
氷が薄くなっている危険な場所でドヤ顔でポーズを取ってみせるガイド。
実際に歩いていて氷の底が抜け落ち、そのまま激流に飲まれ死んでしまう人もいるので油断は禁物。ただ、ザンスカール人は子供の頃からチャダルを歩いているので、他のインド人や自分とは歩き方の安定感が違う。まるで靴底と氷上が同化しているかのように歩き、重い荷物を担いでいても滑ったりバランスを崩すことがない。
まぁ稀にズッコケるのを見ると嬉しくなるのだが・・・
ちなみに米原真理氏の著書「マイナス50℃の世界」によると、気温がマイナス40度~50度になると氷上を歩いても滑らないらしい。
氷と靴底の摩擦で氷の表層が溶け、薄い水膜ができることが滑る原因なので、本当の極寒地だとわずかな水膜すらできない為、そもそも滑らないという。
シベリア、恐るべし。
完全に氷が溶け切っている場所は岩に登り、遠巻きに歩いて行く。
常に前方を確認しながら歩かないと、時折現れる穴に落ちてしまう危険性もある。
開けた場所に出る。まさに氷と岩山の世界。
あまりのスケールの大きさに思わず立ち止まって見入ってしまうほどの風景。
デリーからレーまで移動した際に機窓から一面真っ白な山岳地帯の中に無数の山襞を見たが、今自分はその1つを歩いてるんだなと実感。
チャダル上で昼食を取る
この日は6時間ほど歩いて終了。テント設営
夕食後、温かいチャイを飲み、冷えないうちにすぐにテントの中へ
前日同様、目と鼻以外は全部寝袋で覆うようにして足元には湯たんぽを設置し寝る準備万端。
ミイラのような恰好でテントの天井を見つめながら「とうとうチャダルに来たんだな」と感慨に耽っていると、ガイドが突然「ユースケ、俺には夢があるんだ」と話しかけて来る。
「ん?どんな夢?」と返すと
「俺はタイに行きたいんだ」
まあ、そりゃそうだろう。こんな外界から隔絶されたクソ寒い地域にいたら温暖な国に行きたくなるのはわかる。
「俺はタイに行って女と遊びたいんだ」
なんじゃ、それ。
神秘に満ちた秘境・ザンスカールで煩悩まみれの夢を打ち明けてくるガイド。
聖者のナーローパが聞いたら悲しみますよ。
※ナーローパはザンスカールのゴンパ(僧院)や洞窟で修行していた聖者。
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